International Budo Ryokukai

 

OCS NEWS    5/29/1997

飯村昭子のノートブック  #23

 

気を勉強する大学病院の医師たち

 

 西洋医学の殿堂ともいうべき大学の医師たちが、治療のために気のトレーニングを受け始めた。

西と東に分かれていた医学の世界が融合し、拡大しつつある。21世紀に向けて人間の癒しの問題は大きな方向転換を迫られている。

1月から気のワークショップを始めたオハイオ大学病院の現場を訪れた。

 

ニセ医者から医者へ

 

オハイオ大学のキャンパスに、気のワークシヨップが新設されたと聞いて出かけた。

毎月第二と第三の週末の午後、体育館を会場に20人ほどの受講者を集めて講習が行われる。

講師は格闘技を基本に気を編み出し、がんなどの難病に 取り組んでいる新倉勝美氏で、毎回、ミシガン州から弟子2人を伴って4時間ドライブして訪れる。

 ナース、学生、気功に興味のを持っている人、交通事故に遭って身体に障害のある人、白衣のポケットから聴診器をのぞかせた医師もちらほら。 障害者のリハビリテーションに従事しているという若いセラピストたちも、真剣な表情でマットの周囲に集まり、新倉氏の指導を待っている。

 車椅子に座っているのは、脳卒中の後遺症で左半身が不自由な男性、その傍らに小柄なその夫人。

 幸泉久子博士の気についての解説でワークシヨップが始まった。ワークシヨップ開設を実現した幸泉博士は、この病院の児童精神科の臨床医として、常に 新しい治療法を追求している。気による治療を、知識だけでなく実際に関係者が研修できるようにしたいと、大学に働きかけた。

 気という東洋医学の発想が西洋医学の発展に何かを寄与するかもしれないという期待が、幸泉博士たちの胸中にはあった。 東洋医学書などで実際に学んだ気に実際にふれたいという思いを抱きつずけていた時に出会ったのが新倉氏だった。

 ニューヨークまで出かけて自分の目と身体で新倉氏の気を確かめ、現代医学にプラスするものがあると確信し、半年以上かかって実現したワークショップだった。

 第一回目のワークショップは一月の最週ウイークエンドで、ミシガンの新倉氏の道場から20人以上のメンバーがバスで乗りつけ、参加した医師やナース、医学生たちに気のデモンストレーションを見せた。 

全員マットレスの上に座って呼吸の練習を始める。 「気は身体の両側から出ているので、それをすくって前に出すように・・・」 と新倉氏。

彼の目には人間の身体からわき出す気が見えるのかもしれないが、これが見える受講者は一人もいない。

 見えない気を想像の目で見つつ、シー、シーと唇の間から吐気音を出しながら、気を外に向けて送り出している。

 「この間ケンタッキーでやったときは大変でした。閉めきった会場に90人以上の人がいて、いっせいに気を出していたんです。その時遅れてきた人がドアを開けて入ろうとした。中に充満していた気が開かれたドアに向かって流れ、入ろうとした人が気に押されて後側に吹き飛ばされてしまったんです。」

 新倉氏の体の2倍もある大男のポールが、新倉氏の出す気をまともに受けて後ろ向きに吹き飛ばされた。 一指もふれずに忍術のように大男のポールを吹き飛ばすありさまを目の前にして、見えないいエネルギーの存在を認めざるを得ない。 

小柄な新倉氏の身体を、数人の受講者が腕を持ってかかえ上げる。軽々と持ち上げられて両足を宙に舞わせる新倉氏。

「では、気で抵抗しますからもう一度上げてみてください。」 もう一度腕を取られた新倉氏の形相が変わる。眉と目がつり上がり、力んで赤黒く変色した仁王のような顔。 さっきの受講者達は同じように彼の体を持ち上げようとするが、巨岩のように重くなった新倉氏の身体はびくもしない。「これが気です。」と新倉氏。

 いきなりマットの上の正座した新倉氏。その真後ろからポールが、新倉氏の頭めがけて力いっぱい木刀を降りおろす。頭に刀がふれたかと思われる瞬間、ポールは木刀もろとも後ろに吹き飛ばされた。「頭から気を出して殺気を追い払いました。」 一同、シーンとしてあっけにとられている。 

「このデモンストレーションは、気の力を知っていただくためにやりました。みなさんには、この気の力を病気の治療に使っていただきたい。」 

気は特定の人の力ではなく、呼吸している生物全てが持っているエネルギーで、生命力と同じ。あらゆる動物、植物全てがこのエネルギーで生かされている。

 病気は気が病んで全体のバランスが崩れている現象だから、不足の気を補ったり余分の気を抜いたり、スムーズに流れるようにしたりする。 そのテクニックを伝授するのが、このワークショップの目的である。

 呼吸によって強い気を作り、それを体以内に入れて内臓の中まで揺すってしまう。がん細胞を組織から離してしまう。エネルギーを入れて動かない手を動かしてしまう。 メスも薬も使わずに呼吸だけでそれほどの効果が上げられるという説明を、メスを持って治療する医師達が黙って聞いている。

 新倉氏の指導で、基本的な治療法の実習が始まった。 「そうです、両脇からでる気をうまく前に送ってください。」 2人組んで、お互いに気を送り合う練習。 そうして、やがて病人に気を送るようになるのだろうか。

「私はニセ医者です。ここには本当のお医者様がいらっしゃる。どうかこの方法で病気を治していただきたいのです。」 

 

気は愛

 

空手、柔道、剣道、合気道、その他、ありとあらゆる格闘技を勝ちぬいてきた新倉氏は、いくら勝っても常に挑戦される王者の虚しさ、孤独、耐えがたい寂しさをよく知っている。

 「人を倒すのではなく助ける気だけを作りたい」 ミシガンの道場の壁に、”気のクラスはがんなどの重病を治す研究をしています。お知り合いにそういう方がいらしたら先生にご相談ください”の張り紙を出したのはもう5年も前のことだ。

アメリカに渡って10年目。殺気の出し合いで生きる格闘技の生活に、疑問を持ち始めた頃だった。

  がん、筋萎縮ジストロフィー、脳梗塞による半身不随、骨や筋肉の異常、幼児の発育不全、視力低下、その他、難病奇病に苦しむ人々が、新倉氏のことを口伝てに知って次々と訪れた。

 「たくさんの病気の方に、私の気は育てられました。初めての病気が現れるたびに、どういうふうに気を入れようかと考え続けるのです。そうやって考え出した方法が、一万種類以上あります。それでもまだ、新しい方法を考えなければいけない病気に遭います。」

  病気との闘い。格闘技のチャンピオンベルトからは与えられない喜びが新倉氏をますます気の研究にかり立てた。

  治った人たちの感謝、優しい人たちとの出会い。それはいたわり合う愛の世界だった。

新倉氏は自分の気のクラスのパンフレットに書いた。 「気は愛です。」 

 

 

医学の概念の拡大

 

オハイオ大学医学び小児精神病科の一室で、幸泉久子博士やパット・ホーマン博士らと雑談した。

 ワークショップの始まる前のひととき。週末で室内に人気はなかった。 お二人とも気のクラスに出るためのラフなスタイル。

 古代からずっと、人間は病気と闘ってきた。病気治療の知恵の蓄積は膨大なはずだ。19世紀実証科学主義の範囲で、発達してきた現代医学は、それ以前の実証できない医学を無視して発達してきた。

 医学テクノロジーが発達したおかげで、病院にはハイテク医療機器がどんどん導入されている。 何億年前とはそれほど変わらない肉体を抱えている病人のほうは、その最新の機器にひるんでいるとはいえないだろうか。医療費も高くなるだろうし、人間よりも器械に判断されうことの恐ろしさが、ひとびとの健康意識を刺激している。

 エクササイズ、ダイエット、栄養剤、瞑想・・・・病気を引き起こす心身のストレスをうまく解消したいというニーズに合わせて、ヘルシーなライススタイルの情報が世界を飛び交っている。

 20世紀は健康法と環境対策で幕を閉じようとしている。  現代医学のメッカである大学医学部の臨床医学者達が新倉氏を招いて気のクラスを設立したことは、20世紀末の現象のひとつといえよう。

 「教授も学生も未来の医学としての気に、大きな関心をもっています。もちろん関心を持つのは気だけでなく、もうひとつの医学(alternative medicine)として、特に東洋医学の見治しは積極的に行っています。医学が宗旨変えをするのでなく医学の拡大だと考えた方がいいでしょう。私たちの学部のチェアマンは、ワークショップの設立に反対しなかったばかりか、会場としてジムを無料で貸してくれました。現在、資金援助を各種のグラントに申請しているところです。」  幸泉博士の口調は熱っぽく、フォアマン博士も何度もうなずく。 

 

***どんな人たちがワークショップに参加していらっしゃるのですか。 
   
  幸泉 気のワークショップが始まったのは今年の1月末です。(オハイオの)コロンバスを中心とした精神科医の会の会員に開設を知らせたもので、参加したのは精神衛生の分野で働いているセラピストやヒーリングの専門家が主です。  

***幸泉先生は児童精神科の臨床医として、実際に治療に気を使っていらっしゃいますか。 

  幸泉 ワークショップがまだ始まったばかりで日が浅いので、たくさんのお治療例はありませんが、多動性症候群の9歳の男の子に使ってみました。落ち着きが無くいつも動き回っている子供なのですが、胸に手を当てて気を送ってみますと、すぐに静かになりリラックスしました。  

  フォアマン 新倉先生は不眠症に効くかもしれないと言われました。

幸泉 私は気だけでなく、中国医学も勉強しています。ライフスタイル、気分、季節など、いろいろな条件を考慮した医学が必要です。 

  フォアマン 自然とのハーモニーは重要です。西洋は身体の中側にだけ病気の原因を探しましたが、東洋では自然との不調和の部分を調整して調和させる。それがヒーリングになりました。医者に頼らずライフスタイルを整えたのです。 

***今、ホリステック・プラクティス(総合医療法)と呼ばれるものに通 じますね。  

  フォアマン そうです。今月、ここで開催される「ヒーリング・コネクション」というワークショップでは、祈りによるヒーリング、瞑想とリラクゼーション、中国医学と気、整体、障害をプラスに変えてコミュニケーションを得る方法、リズムによるヒーリングなどがテーマとして取り上げられています。  

   
***中国医学での気は、新倉先生のワークショップの気と同じですか。  

  幸泉 考え方が違うと思います。中国では経絡ということを言い、その交差するつぼから治療するようですが、武道から入られた新倉先生は、身体のどの部分からでも強力な気を出し、それらの力で病気を治そうとしていらっしゃるようですね。 中国では、気は情報を伝達するので人の思うことがエネルギーの結果 として実現するということになっています。バイキンを増やして殺気を送るのも、逆にバイキンを殺して病気を治すことも、同じエネルギーなのです。思うことが伝わって実現するので、同じ気で相手の首をしめることも肩こりを治すこともできるのです。祈ることが、だから効力を持つのです。  

  フォアマン クリスチャンの祈りも同じです。祈ることでバクテリアを殺すのです。祈りは気に通 じます。 
  

***中国医学では、気のほかにどんなアイディアに興味を持たれましたか。  

  幸泉 身体の経絡を使う内臓の治療がとても参考になります。それならば、脳につながる経絡を使って、鬱病などの精神病を治せるのではないのかと言うのが、私のこれからの課題です。おもしろいことに、中国医学には鬱の概念がありません。悲しみとかはありますけど・・・・。 本当に私たちの知識は大河の中の一滴の水でしかないくらい、生命の中身は奥深いと思います。 私の父は西洋医学の医師でしたが、x線と同時に、鍼や指圧も治療に使っていました。無料でね。父の死後ノートを見たら、経絡、指圧などが詳しく書いてありました。今私が、西洋医学を学んだ後で東洋医学を学ぶようになり、父と同じ道を歩いたことになりました。これは、偶然ではなく、父の意志だという気がします。  

  フォアマン 残された知恵を使うことは大切です。時間と犠牲の後に蓄積されたものですから。 
  

気の出るビデオ、本などもあるが、絵でも文字でも音楽でも踊りでも、精魂込めて制作したものは必ず、その制作者の込めた気が発散していて、それが見る人、聞く人の心を打ち、何かを変える。 自然のたたずまいも同じ。 物質主義によって盲目になった私たちの視力を取り戻せば、いたる所にある愛の気を、自分で探し当てることができると、確認するオハイオへの旅だった。